令和2年8月14日

NITSニュース138号 講師コラム「コロナ危機に示された教師の資質と力」

【今週の目次】

  1. 今週の一言
  2. 講師コラム
  3. オンライン講座「校内研修シリーズ」のご紹介
  4. 研修プロデューサーより
  5. 編集後記

1. 今週の一言

連日、大変な暑さが続いています。くれぐれも熱中症にはご注意ください。 8月11日~13日の夜にかけて、日本でもペルセウス座流星群を観察することができました。 花火や夏祭りなど、各種イベントを楽しむことが難しい今年の夏は、こうした自然からの贈り物が、例年以上に尊く感じられる気がします。

今週は、当機構の上席フェローであり、現在OECD(経済協力開発機構)で研究に従事している、百合田真樹人上席フェローのコラムを中心にお送りします。

2. 講師コラム「コロナ危機に示された教師の資質と力」

独立行政法人教職員支援機構 上席フェロー/OECD教育スキル局 政策アナリスト 百合田真樹人

新型コロナ感染症対策に伴う外出制限措置が大幅に緩和されたフランスでは、バケーションシーズンを前に欧州圏内の移動が解禁されました。 ただし、3月中旬に始まった在宅勤務はすでに4か月を超え、8月になっても在宅勤務が原則として続いています。 日本の状況はいかがでしょうか。

コロナ禍を契機に私たちの生活も働き方も大きく変わりました。 なかでも世界各国の教育現場でICTを活用した遠隔教育や学びの支援の実践は、コロナ禍を契機に急拡大しています。

一方で、休校措置下の火急的措置として急速に展開されたICT活用を、ここで振り返る取り組みが求められます。 ICTを活用した教育活動には、学校の準備状況や家庭の通信環境、保護者の関与のあり方の差による格差拡大という負の側面も確認されています。 このような格差課題を改めて確認し、実践と制度の両面から的確な対応措置を検討する必要があると考えます。

また、突然の休校措置とその長期化に伴う先行きが不透明ななか、実に多くの先生方が、試行錯誤を重ねて子どもの学びの支援と公教育の継続に努めてきたことを忘れてはなりません。 教師という専門職の責任を担い、試行錯誤を重ねた先生方の多くは、心身ともに大きなストレスを抱えた状態にあることが容易に想像できます。

思い返せば東日本大震災でも中国地方豪雨災害でも、学校の先生方は非日常のなかで日常を維持することに最前線で取り組んでこられました。 危機の最中で日常を維持し、公教育の継続と学びの支援に向けて現場の先生方が示す柔軟性と責任感に対して、改めて積極的で顕在的な評価を工夫することが大切でしょう。

過去20年間の教師の資質能力をめぐる議論の多くは、個々の教師の力量不足、資質能力不足をどう克服するかに軸足を置いてきました。 教育の質保証を個々の教師の力量と結びつける言説は、同時期に生まれた教師力という言葉にも表れています。

ところがコロナ危機をはじめ、その他の危機を前にした教師は、その力量を柔軟に活用して公教育の継続と子どもの学びの支援に試行錯誤を重ね、専門職としての高いモラルを示してきました。 一括りに力量不足と言えるほどに、教師の力量も教師集団も一様ではなく、何が力量として発揮されるのかも自明でないことは明らかです。

コロナ後の教育やICT活用の継続を議論するなかで、教師が示した力量とモラルとが看過されるならば、それらの議論は不完全になるでしょう。 一方で、全ての教師が高い力量とモラルを備えていると考えることも短慮に過ぎます。

コロナ危機後の教育を議論するうえで、個々の教師が危機にどう応答したのか、どう応答できたのかという個々の実践や経験の丁寧な省察が求められます。 そのうえで、どのようなマネジメント環境の下で個々の教師の多様な力量が発揮されたのか、また制限されたのかを振り返ることが求められます。

コロナ危機で革新的な取り組みを実践した主体である教師に焦点をあて、どのような教師がどういった環境の下でその専門職に附帯する力量とモラルを発揮したのかを省察することは、学校マネジメント及び人事マネジメントの観点からも、さらなる高みを目指す礎につながるのだろうと考えています。

3. オンライン講座「校内研修シリーズ」のご紹介

ご好評いただいている「校内研修シリーズ」。今週は「NITS調査研究プロジェクト」に関する動画をご紹介します。

4. 研修プロデューサーより「心に寄り添う生徒指導の在り方」

独立行政法人教職員支援機構つくば中央研修センター 研修プロデュース室 特別研修員 有友政憲

「Withコロナ」の時代を迎えました。 改めて学校における生徒指導・教育相談の重要性、そして、これまでとは異なる環境下での対応の難しさを実感されている先生方も多いのではないでしょうか。 「NITSオンライン研修 教職大学院向け集中講座『生徒指導(教育相談含)』」(※受講者対象の限定配信)では、【生徒指導】【教育相談】【いじめ】について、高い専門性を備えた講師より、コロナ禍における対応の在り方等も踏まえてご講義いただいた模様を配信します。

兵庫県立大学の竹内和雄先生からは、『ネットいじめの未然防止及び解決に向けた指導と対応』と題し、竹内先生からの講義はもちろん、オンライン時代の授業を先取りしたZoomでの収録を行っていただきました。 受講者の理解が深まるよう、現職教員及び大学生がそれぞれの立場から、ネットいじめの現状について討論する様子も収録されています。

続いて、FR教育臨床研究所の花輪敏男先生には、不登校児童生徒への対応、あるいは特別支援教育の観点も踏まえた『教育相談の効果的な実践』について、鳴門教育大学の葛西真記子先生からは、『性の多様性にかかわる児童生徒への教育相談』として、LGBTをはじめとする性的マイノリティへの理解及び性の多様性を認め合う環境作りの視点について、それぞれ演習時間も設定された講義をしていただきました。

それ以外にも、『チーム学校の構築と教育相談』(文部科学省 廣石 孝先生)、『いじめ問題と効果的な児童生徒の指導』(関西外国語大学 新井 肇先生)、『チーム学校のためのコーチング』(別府大学 佐藤敬子先生)といった示唆深い講義動画も配信されます。 社会の変化が著しい現在において、いじめや不登校、問題行動の未然防止、早期発見・早期解決に向けた手立てをどう講ずるかについて、深く考え、実践的な対応の在り方、組織としての取組を学ぶ機会になるのではないかと考えています。

生徒指導について考えるうえで何よりも大切にしなければならないのは、児童生徒に寄り添う姿勢であり、人と人との関係づくりです。 子どもたちの発言や行動、仕草や表情の奥には、どんな心理が働いているのでしょうか。 学校生活や友人関係、家庭環境に思いを巡らすことはもちろんですが、発達特性や心理傾向、性的指向についての専門的な知識を学ぶことも必要です。 学校組織として対応する体制や、専門機関との連携等の具体的な手立てを整えることも大切です。

このような総合的な力を蓄えることで、子どもたちの心に寄り添える素養を身に付けることになるのではないでしょうか。 コロナ禍における休校や分散登校により、学校で見せる子どもたちの表情や態度から、その胸の内を知ることが一層難しくなってきました。 社会不安から、知らず知らずのうちに自分の本心を見失っている子どももいるのかもしれません。 そのような子どもは、自分の気持ちを上手く相手に伝えることができません。 だからこそ、一人一人の不安や心配を丸ごと受け止められる大人の存在が必要です。 本研修の講義動画を通じて、私たち運営スタッフも、教員として、一人の人間として、多くのことを学ばせていただく機会となりました。

5. 編集後記

長梅雨の反動からか、つくばでは例年以上に多くのカブトムシを見ることができます。 子どもと一緒に捕まえに行くと、立派なオスが数匹、樹液に群がっていました。 同時に、カラスにやられたのか、胴体をもぎ取られてもまだ足をジタバタさせているカブトムシもいました。 「これも自然の勉強」と思い、子どもにもじっくりと観察させましたが、まだあまりよく分かっていないようでした。

持って帰ったカブトムシは「カブちゃん」「カブお」と名付け、我が家の虫かごで元気に暮らしています。 ひと夏の命ですが、子どもが少しでも愛着を持って、お世話することを通じて何かを学んでくれれば幸いです。

来週は、「リスク・マネジメント」に関するコラムを中心にお送りします。