NITSニュース第117号 令和2年1月24日

コミュニティ・マネジメント

島根大学 准教授 中村怜詞

地域と協働して学びをつくることは、生徒に多くの影響をもたらします。今回は特に2つ取り上げたいと思います。

1つ目は、コンピテンシー(資質・能力)の成長です。 大人と協働することは生々しい責任感を伴います。自分のモチベーションが下がっていたとしても投げ出すことは出来ません。その中で自分をコントロールして行動する術を徐々に身に付けて行くことになります。 そもそも協力を仰いでも、忙しい大人たちをその気にさせることは容易ではありません。 相手が一緒に動きたくなるような企画書を書いたり、プレゼンをするためには、何故その問題が起きているのか、背景となる情報を収集したうえで分析したり、現実の制約条件を考慮したうえで考えうる最善の解決策をつくり上げたりする必要があります。 そのプロセスの中で生徒たちは多様なコンピテンシーを発揮して徐々にその力を自分のものにしていくのです。 地域社会での学びは、社会で実際に働きだす前の練習試合のようなものです。

2つ目はリアリティーの再生です。 最近「リアルな学び」というキーワードが頻繁に使われます。生徒たちはそれ以前に「地域で生きていることのリアリティー」を取り戻す必要があるのかも知れません。 生徒は、地域社会に住んでいても、多くの地域住民と対話し、共に過ごしていなければ、地域をアイデンティティに組み込むことが出来ません。 そんな状態で、地域社会の抱える問題にリアリティーを持つことは出来ません。すぐ近くにあるはずの問題なのに、どこか遠い世界のことのように感じているのではないでしょうか。 生徒が地域にある問題と直接繋がることが出来ていないときには、深いかかわりを持つ住民たちの暮らしを通して問題を「発見」することになります。 生徒が自分で設定した問題なのに、意欲が低い時には、地域の問題と自分を重ねることが出来ていないのかもしれません。 地域に入って住民と対話的・協働的に活動することは、地域問題のリアリティーを彼らの中に再生する意味を持ちます。

では、どのようにして地域と協働した学びを設計すれば良いのでしょうか。こちらについては、最初の1歩目と2歩目について述べたいと思います。

1歩目は、校内でチームを作ることです。地域と協働した学びの推進は、校内にチームが出来ていると進めやすくなります。 特に、同じ教科や学年に仲間がいると、教科としての取り組みや学年としての取り組みに持って行きやすくなります。 欲を言えば、そのチームの中に教科主任、教務主任、学年主任、教頭などが入っていると、取り組みを次年度に繋げて仕組化しやすくなります。

2歩目は、小さく始めることです。組織と組織が最初から繋がり合うことはありませんし、コンソーシアムが最初から機能することも殆どありません。最初は、個と個の繋がりが起点になります。 自分と行政の〇〇さん、自分と地元企業の〇〇さんという、小さな単位で繋がり、出来ることから協働して取り組む中で信頼関係を蓄積していくことになります。(地域との繋がりが全くない方は、まずは行政の地域振興課などを訪れてみてください。) いきなり大きなイベントなどを企画しようとせず、自分の授業、学年の総合的な探究の時間、特別活動などの中で、生徒と地域が繋がる取り組みを始めてみることです。取り組みを重ねる中で互いに提案したり、依頼したりしやすい関係が出来ていきます。 最初から大きな成果が出ることはありませんが、出来ることを続けていくうちに、個と個で始まった取り組みに周囲を巻き込めるようになっていきます。 誰かが動くのを待つのではなく、自分で小さく始めてみることが大切です。