NITSニュース第108号 令和元年11月1日

より質の高い研修をめざして

松蔭大学 教授 山下文一

2019年10月5日、ドーハで行われた世界陸上2019、男子400メートルリレーにおいて、日本男子はアジア新記録37秒43で「銅メダル」を獲得し、2大会連続のメダルを獲得したことは、みなさん記憶に新しいと思います。 メダルが確定した時、肩を組み、互いの健闘を称え喜び合う姿に多くの皆さんが感動を覚えたことだと思います。

走力に劣る日本は、バトンの受け手のスムーズな加速のために「アンダーハンドパス」を2001年に採用しています。 この2大会連続のメダルは、自分たちの特性を活かせるアンダーパスを採用し、18年もの年月をかけて技を磨いてきた結果であるといえるのではないでしょうか。

彼らのめあては明確です。東京オリンピックで金メダルをとる。 そのために、自分たちは何をどのようにしていくのか、その道筋を明確に持って、一人一人があるいはチームとしてやるべきことを明らかにして歩んできたのです。そして、今も金メダルをめざして歩み続けているのです。

さて、このことを私たちの教育・保育に置き換えてみましょう。 平成18年の教育基本法が改正され、新たに「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なもの」として明示されました。 また、学校教育法においても「義務教育及びその後の教育の基礎を培うもの」として規定され、これまで以上に子どもが最初に出会う先生として、その責任と役割を果たしていくことが求められています。 つまり、保育者として自身の力を高めていく不断の努力がこれまで以上に求められているということです。

これらの実現のためには、一人での努力には限りがあります。 また、園外で行われる研修にやみくもに参加したところで研修効果は期待できません。 まず最初に大切なことは、初任からミドル、そして管理職へとキャリアに応じて身に着けるべき力を明らかにし、園内研修や園外における研修を組み合わせながら、意図的・計画的に質を高めていかなければなりません。

さて、その役割はだれが担うのでしょうか。それは、子どもの教育をつかさどる教育委員会や園長です。 教育委員会は、リーダシップを発揮し「わが町わが村のめざす子ども像」の実現に向けて、保育所等を所管する他の部局と連携しながら研修を企画、立案し実施していくことが大切です。

一方、園においては、園長のリーダシップのもと「園の教育目標」実現に向けて、計画的な園内研修の実施や都道府県や市町村が行う研修と関連させながら園の研修計画を企画、立案し実施する。 さらに、保育者の一人一人の特性(保育者の強み・弱み)に応じた支援や指導が大切です。

次に大切なことは、研修後の評価です。多くの場合、研修終了後に参加者アンケートをもって、研修の評価行っていることが多いのではないでしょうか。 参加者の意見を聞くことは大切なことです。しかし、これだけで研修効果の良しあしを決めるのはどうでしょうか。 研修は何のために行っているのでしょうか。その目的は、研修で得たことが園において、子どもたちのために日々の保育で活かされることではないでしょうか。 だとしたら、例えば研修後1か月経過した時点での参加者アンケートの実施。あるいは、第三者からの客観的な評価として、園長や同僚からの評価などを取り入れ研修効果を捉え、次年度の研修計画に反映していくことなども大切です。

「わが町わが村、わが園のめざす子ども像」実現に向けて、研修を企画・立案し、実施し、評価・改善を行うというサイクルのもと、それぞれの地域において特色ある研修の実施に期待したいと思います。