NITSニュース第52号 平成30年8月3日

インクルーシブ教育システムとインクルーシブ教育

新潟大学 教授 長澤正樹

障害者の権利条約(日本語訳)によると、「教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する」とあり、すべての子どもを包容する教育、つまりインクルーシブ教育が子どもの権利として認めらました。わが国では、特別支援学校など特別な場での教育の場を残し、学びの連続性を保障しています(インクルーシブ教育システム)。

しかし、障害のある子どもが、地域にある学校の通常の学級で、障害のない子どもと一緒に教育を受けることをインクルーシブ教育として実施している国もあります。その場合、子どもの教育的ニーズにあったカリキュラム、教育内容、サービスの提供を保障します。

子どもが生活する学区にある小中学校の通常の学級で教育を受け、すべての障害に対応できるよう校内体制を構築するのです。

つまり、地域での対応ではなく学校での対応が基本なのです。特別な学級・学校は必要最小限に抑え、通常の場で対応がむずかしい場合はリソースルーム(通級による指導)を活用します。違いをまとめると、わが国のインクルーシブ教育システムは地域ですべての障害のある子どもの教育を保障していますが、この制度はひとつの学校で保障しているのです。

当然のことながら、この制度では、通常の学級では障害のある子どもだけではない多様な子どもたちが学んでいます。子どものニーズの多様性に対応するため、学習のユニバーサルデザイン(UDL)は必要条件となり、多様な方法(提示方法、表現方法、授業参加の工夫)を採用して子どもの学力を保障します。UDLで結果が出せなかった(目標となる学力を獲得できなかった)子どもには、段階的に特別な指導を提供します。学べなかった子どもを放置することは許されません。

つまり、UDLはすべての子どもへの教育の質の保証であり、特別な指導の必要性を示すアセスメントでもあるのです。障害という基準で特別な指導をするのではなく、結果(学習の到達目標がクリアできたかどうか)で判断するのです。

このような対応を実施するには、学校として次の3点が求められます。①結果で特別な指導をすることと基準を明確に示し、子どもと保護者に対しての説明責任を果たすこと、②UDLと特別な指導が実施できる校内体制を構築すること、③UDLと特別な指導を実施できる教師の専門性を高めること。

なお、インクルーシブ教育を成功させるための要因として、McLeskey(2014)は次の2点を挙げています。①児童生徒支援とそのための教育の質の向上(すべての児童生徒のニーズに応える、すべての生徒に質の高い指導を提供する、教師に専門性を高める機会を提供する)、②管理職の役割と校内体制の構築(校内リソースの有効かつ柔軟な活用、組織的な意思決定、指導結果の記録を活用した実践)。ひとつの学校内ですべての子どものニーズに対応するためには、今までの学校をリフォームすることが必要なのです。

地域ですべての子どもを包含するインクルーシブ教育システムを続けていくか、学校ですべての子どもを包含するインクルーシブ教育に変えていくか、皆さんはどちらを選択しますか?

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